ソノノチ
3人の「さよならの絲(いと)」
脚本:中谷和代
ほんの少しだけ、隣にすわって。
たとえ辛くても、さよならを聞いて。
とある田舎町のスナックの二階に、チャコの仕立て屋はありました。
昼も夜もひんやりとしていて、電球ひとつだけの灯りに頼った暗い部屋でした。
ジレとボレロは、西の方からこの東の街に越してきた、若い夫婦です。
二人で作ったパン屋がオープンする日にジレが着るベスト。これが、ボレロからの注文でした。
「あなたがそれを仕立ててくれる間、私はあの人のいた頃の夢でも見ていよう。」
そして、ベストの制作が始まります。
ボレロはいつしか、ミシンの縫い目をひとつひとつ辿り返して、ジレと二人、この街に来たころのことを思い出していました。それは時間の端を返し縫いする合間に起こった、一人と二体のものがたりです。
音楽が聞こえます。ワルツです。
そろそろベストも仕上がって、お別れの時間が近づいてきました。
パン屋の夫婦の服を仕立てていく中で、チャコがすがりついていた独りよがりな物語の世界とさよならする、はじめての納品までの物語。
2013年6月に上演した脚本です。
登場人物:男1人 女2人
上演時間:約75分